大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)2463号 判決
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〔判決理由〕一 原告がつぎの登録意匠(本件意匠)権を有することは当事者間に争いがない。
意匠に係る物品 道路用境界ブロック
登録請求の範囲 別紙本件意匠図面および説明書に示すとおりの道路用境界ブロック(注、原文のまま)
登録日 昭和四四年一〇月二四日
登録番号 第三〇六六四〇号
そして本件意匠公報によれば本件意匠の出願日は昭和四一年一月三一日であることが認められる。
二 原告は被告が業として別紙(イ)号および(ロ)号図面表示の形状の道路用境界ブロック((イ)号および(ロ)号物件)を製造販売している旨主張するが、被告が、過去および現在ともに、(イ)号および(ロ)号物件を製造販売した事実またはその準備をした事実を認めるに足りる証拠はない。
もつとも、……被告発行の宣伝用パンフレットに、「駒止スコッチライト付」と名付けて、(イ)号物件に酷似した道路用境界ブロックの図面およびその寸法書の記載がある事実は認められるが、右の事実の他に右パンフレットに記載の「駒止スコッチライト付」コンクリートブロックを被告が現実に製造販売した事実も、その準備をした事実も、これを立証すべき証拠がなく、かえつて検証の結果によれば被告は(ハ)号物件のみを製造していると認められる。
一般に、宣伝用パンフレットには発行者の事業内容をやや誇大に記載して宣伝していることが稀ではなく、また宣伝用パンフレットには注文があれば適法に他から購入して販売する予定の物も、さも自己が製造しているかの如く記載していることも屡々みられるところであり、宣伝用パンフレットに記載があるからといつて、それだけで記載されている物件をすべてその発行者が製造しているとは断定し得ないから右パンフレットの記載のみをもつて、被告が(イ)号物件を現実に製造販売またはその準備をしていると認めることはできない。
三 本件意匠と(ハ)号物件の形状との類否について
1 被告が(ハ)号物件を製造販売して
いることは当事者間に争いがない。
2 本件意匠の構成
本件意匠登録証によると、本件意匠は、道路用境界ブロックの形状に関し、つぎの要素から構成されていると認められる。
(一) その前面を上端縁を孤面とした上段部と、上段部よりも突出せる下段部および中央部に分ち、中央部は上段部下端縁と下段部上端縁を結び、側面形状において内方へ彎曲せる曲面に形成し、この中央曲面部と上段部下端縁の接合部は正面形状において右接合部が横方向の線としては表われないよう小さい孤面とし、前面全体の側面の形状を近似S字状とする。
(二) 上面は後端より前端に向つてやや低く傾斜せしめ、後面(背面)は垂直面とし、底面は水平面に形成する。
(三) 両側面中央に奥端部をやや小さくした盲角孔を設ける。
(四) 前面上段部の中央に矩形状の反射板嵌着凹溝を設ける。
3 本件意匠出願当時の公知意匠
(一) 本件意匠のもつ新規性について
道路用境界ブロックの前面形状に関しては、登録第二四四九〇九号意匠公報および理工図書株式会社発行「道路用ガードフェンス」によれば、前面を上段部、中央部、下段部に分ち、中央部を内方へえぐり、上段部下端縁と中央部上端縁との接合個所および中央部の孤状のえぐりが前方へ直線で傾斜を開始する接合個所はいずれも角隅とし、正面形状において右各接合個所がそれぞれ横方向に線を形成する形状が、また大阪府道路舗装工営所長の証明書および大阪府道路作業事務所長の証明書によれば、右とほぼ同様の前面形状であるが、中央部のえぐり部分中には角隅がなく、なめらかな彎曲面をなし、えぐり部分には正面形状において横方向の線が表われない形状が、また側面形状に関しては、……本件意匠の側面形状と同じく、その中央部に奥端部をやや小さくした盲角孔を設ける形状が、それぞれ本件意匠出願当時公知となつていた事実が認められる。
原告は……昭和四〇年一二月二八日頃大阪府道路舖装工営所において行われた入札は、一般の公開入札ではなく、右工営所によつて指定された限られた数業者による競争入札であり、入札に関する一件書類は右により限られた数業者のみに手渡され、かつ右書類は入札後即日のうちに右工営所によつて回収されたし、一般の閲覧にも供されていないから、右入札に関する一件書類の配付または入札の時点においては右一件書類中に記載された道路用境界ブロックの形状は公知となつたとはいえない旨主張するが<証拠>を総合して考えると、昭和四〇年一二月二七日および二八日に行われた入札は何人でも参加できるという入札ではなく、大阪府道路舗装工営所長の指名した六業者による競争入札ではあつたけれども、右入札参加予定の六業者には、見積り金額算出等の入札準備のために、あらかじめ同月二五日関係書類を配付し、説明会を行つたこと、右配付書類中に右認定の如き道路用境界ブロックの形状を表わす図面(但し、側面図のみ)が記載されていたこと、右指名された六業者は右関係書類の記載内容を秘密にしておく義務を負つていたわけではなく、右書類を必要資材購入先、例えばコンクリートブロック製造業者等に示してブロック価額の見積りをさせることも自由であつたこと、右工営所の行う現場説明会も非公開、秘密裡に行われたのではなく、説明会実施の邪魔にさえならなければ一般報道機関の傍聴等も許可する立前になつていたこと、落札決定後落札決定業者以外の業者から一件書類を回収するのも、その回収した書類を落札業者に与えるための便宜のためにとられている措置であつて、秘密を保持する目的で行われたものではなかつたことが認められるから、右配付された一件書類中に記載された道路用境界ブロックの形状は遅くとも昭和四〇年一二月二八日には公知となつたものと認めなければならない。
(二) 拒絶理由通知に対する出願人の釈明本件意匠査定に関する一件書類によれば、本件意匠の登録出願は、審査の段階において、昭和四三年一〇月一六日付で前記登録第二三四九〇九号意匠に類似するとの理由で拒絶理由通知を受けたのであるが、右拒絶理由通知に対し出願人である原告はつぎのとおり釈明した事実が認められる。
「(1) 引用の登録第二三四九〇九号の図面に示す意匠は、側面図で明らかな通り、正面側の上端孤状突出部の下側隅部を直線と孤線で鋭く突出し、その孤線は下側の短かい横斜線へ直線状に下した形状に創作の特徴が伺えるものであります。何故ならば、正面側を直線状に形成した直方型の境界ブロックは古くより存在する公知の形状であります。従つて境界ブロックの意匠は、機能的にも重要な正面側に意匠の要部があるものと思考します。
(2) 次に本願意匠は、正面側上端を孤状に突出しその下端を内方へ孤状に彎曲して孤状の斜面を形成し、上端孤状面の正面中央部に車の走行線と適度の角度をなした反射板を嵌着した形成からなるものであります。
(3) 本願意匠は上記の通り引用意匠とは要部において顕著な差異があります。
即ち本願意匠はその正面側を全体的に孤線であらわし、やわらかい審美感と一種の安定感を看者にあたえる形状とし、昼間は太陽の反射光線で、夜間は自動車のライトで、正面中央の反射版正面が輝くので、綜合的全体観察に於いても引用意匠とは全然異なつた感じを与えるものであります。
この意匠に係るブロックを車道の縁側に配列設置した場合は反射板が点線状に連続して輝き非常に美観を呈するのであります。
以上のように前側面の形状とともに光を重要な要素として取入れた本願意匠は新規な創作性のある意匠と判断されますので、引用意匠との機能上の差異を申上げる迄もなく別異のものとして、登録すべきものと御決定下さるように御願します。」(意見書)
「昭和四四年一月一六日提出の商品カタログ及び写真で明らかな通り本願意匠の要部である反射板は正面中央に凹部を設けて、嵌入するもので、単に接着するものではありません。このことは本願意匠図面の断面図で明らかなように、ブロックの正面上端に断面縦長コ状の凹部が図示されていることで明らかであります。
反射板を接着した場合には、側面図で、反射板の厚さだけ前方へ突出いたします。」(上申書)
(三) 本件意匠の新規な特徴
以上認定のとおり、本件意匠出願当時、道路用境界ブロックの形状に関し、前面中央部を弧面と直線の組合せでえぐつた形状、前面中央部を全体的になめらかな彎曲面でえぐつた形状および側面の盲角孔の形状が既に公知となつていた事実、本件意匠出願に対する拒絶理由通知に対し出願人たる原告は前面上段部中央に反射板嵌着凹溝を設けた点および正面側を全体的に孤線であらわした点が本件意匠の新規な特徴であると明確に釈明している事実ならびに本件意匠を表わした図面中基本となるべき最も重要な正面図には上段部下端縁と中央部上端縁との接合部が横方向の線で表わされていない事実をあわせ考えると、本件意匠は、①前面上段部中央に反射板嵌着凹溝を設けている点および②前面上段部が孤状に突出し、ついで中央部が内方へ孤状に彎曲し、しかる後下段突出部上端縁と接する前面形状において、特に上段突出部下端縁と中央彎曲面上端縁との接合部が横方向の線を形成しないようにした点に新規な特徴があり、したがつて右の2点は本件意匠に類似するかどうかを判断するに当つて軽視することができない部分であると考えざるを得ない。
4 (ハ)号物件についての類否の判断
(ハ)号物件には、①前面上段突出部中央に反射板嵌着凹溝がないことおよび②前面上段部下端縁と中央部彎曲面上端縁との接合部に孤面が形成されておらず、右接合部が正面形状において横方向に一本の線を形成していることは原告も自認するところである。してみると、(ハ)号物件の形状は本件意匠の不可欠の要部をいずれも欠いていることは明らかであり、したがつて、他の構成要素が本件意匠の該当部分にいかに似ていようとも、(ハ)号物件の形状は本件意匠に類似しないといわなければならない。
原告は、(ハ)号の前面形状は本件意匠の近似S字状の形状に極めて近似しており、かつ本件意匠における右接合部の孤面の彎曲度を小さくすれば角隅となり、右接合部を(ハ)物件の程度に形成しても本件意匠の最大の特徴である衝突時の反撥という機能に変りはないから、(ハ)号物件の形状は本件意匠に類似する旨主張する。
しかし、本件コンクリートブロックの意匠におけるS字状の前面形状は、自動車の車両がこれに衝突の際、運転者に与える衝撃を少くするため車を反撥するような機能を有することを考慮されたものであつて、(ハ)号物件のS字状前面形状部分が右の機能を有するとしても、その故に、本件意匠の上段突出部が中央彎曲部に移行する接合部を正面からみて横線となつて現われないよう滑らかな孤状に形成するとの特徴を欠くものまで本件意匠の範囲に属するものと認めることはできない。
また、原告は本件意匠を現実に実施する上において金型の製作等技術的な制約から右接合部の孤面を作りにくく、そのため現実の製品であるコンクリートブロックでは右接合部が角隅になる場合がある事実を類否判断に際して考慮すべき旨主張する。
しかし、本件意匠はコンクリートブロックの前面上段突出部が内方彎曲部に移行する接合部を正面から見て横線となつて現れない滑かな孤状に形成することを欠くことのできない特徴とするものであることは既に認定したとおりであり、右特徴が実施困難なものであると解すべき何らの事情なく、原告の右主張は、要するに、本件意匠の類似の範囲を自己の有利に拡大せんがため、理由なくして右本件意匠の特徴の一部を軽視し、要件から省略せしめんとするものであつて許されないといわなければならない。
右と異なる見解に立つ甲第二号証(吉村憲次作成の鑑定書)および鑑定人宮滝恒雄の鑑定の結果は、採用することができない。
四 そうすると、結局、(イ)号および(ロ)号物件については過去および現在においてこれを被告が製造しまたはその準備をした事実を認めるに足りる証拠はなく、(ハ)号物件については本件意匠における必須不可欠の要部をすべて欠いており本件意匠に類似していないことが明らかであるから、本件意匠権の侵害およびその予防を前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却する。
(大江健次郎 近藤浩武 庵前重和)